難しいライフサイクル短縮化への対応、経営者に求められる志向

製品ライフサイクルが短くなっていると最近、よく耳にします。実際、経営者はどのように考えているか調査してみると以下のようなデータがありました。

製品ライフサイクルの短縮率

製品ライフサイクルの短縮

経済産業省(07年2月) 上場企業を対象とするアンケート調査結果(有効回答227社)
資料: 2007年版ものづくり白書

上場企業の製造業を対象とした、製品ライフサイクルの短縮率を示すデータですが、主力製品の現在のライフサイクルと5年前のライフサイクルを除した数値となり、5年前と比較して何%短縮したかを示すデータです。食品や家電といった消費材が短くなっているのは実感できますが、価格が高い自動車のような耐久消費財も短くなっているのは最近の傾向ということでしょうか。鉄鋼以外、全ての産業において短縮を示す結果となっています。

また、中小企業においても、同様の調査を探してみました。こちらは2004年のデータとなり、古いのですがこの傾向は今も代わらないでしょう。80年代には3〜5年以上あったヒット商品の製品寿命は年代を重ねる毎に短くなり、直近の2000年代には、実に75%もの経営者が2〜3年未満(1〜2年未満、1年未満含む)と答えています。

ヒット商品のライフサイクル

ヒット商品のライフサイクル

(社)中小企業研究所(04年11月) 製造業販売活動実態調査
ヒット商品の定義: 自社にとって売れ筋商品のこと。かつてヒットしたが現在は売れなくなった商品を集計

製品ライフサイクルが短くなれば、当然に設計と開発、販売のサイクルも短縮することになり、大量生産をもとにした規模の追求をしてきた企業にはかなり厳しい状況になっていることは想像に難しくありません。ライフサイクルが短くなるということは、多品種少量生産となり、生産設備や流通網など、既存の経営資源をそのまま利用しても1生産当たりのコストは下がらないでしょう。

成熟期における製品・サービス開発の考え方

少子高齢化、GDPの減退、消費者行動の変化など理由付けはいくらでもあります。大量生産大量消費の時代はとうの昔のことです。モノあまりの時代となった今、機能のアップデートは行き着くところまできており、利用者のベネフィットは以前から満たされています。また、IT化、インターネット化の進展により、製品そのものよりも、付加価値はサービス分野に移行していることもよく指摘されていることです。

今後の考え方に大きな変化をもたなくてはいけませんが、よく指摘されていることも含めて下記のようにまとめてみました。

1. 高機能化ではなく、サービスを含めた新しい体験

製品そのものの高機能化よりも、サービスを含めた顧客の体験を追求した価値を作り上げることが重要になっているのは様々な言及があります。iPod+iTunes、Nike+、、国内でもオムロンヘルスケアのWelnessLINK等、この領域でのインターネット活用例は実に活発になってきてます。現在は製品とサービスを融合した体験が目立ちますが、今後は物販やリアルビジネスでのサービス業と、ネット上のコミュニティやサービスと統合されるなど、様々な活用が生み出されるでしょう。

2. 規模の追求ではなく、価値の追求

費用がそのまま(固定費的)で、生産が拡大されれば、一生産あたりのコストが減っていく。いわゆる規模の経済追求は、高度成長期のような拡大を背景に、単一商品を大規模に展開していくことを想定していますが、もはや成熟期であり、皆と同じものではなく多様化したニーズに対応しなければなりません。

3. 単一の大規模マーケットでのシェア拡大ではなく、複数の小規模マーケットでナンバー1

だからこそ、単一の大規模なマーケットでシェア拡大を図るというより、複数の多様なニーズ/小規模なマーケットでナンバーワンになるということでしょう。「市場リーダーに対する差別化戦略」の別の言い方とも言えるかもしれません。

4. 規模の経済ではなく、範囲の経済

また、複数の小規模マーケットにコスト構造を最適化するためには、同一の資源・資産を横展開することが求められます。いわゆる範囲の経済性を発揮させることが鍵となってきますが、製造業ではモジュラー構造、ネットワークサービスであればクラウドの活用やプラットフォーム化ということです。いずれも開発効率を高め、共通化・共有化するためのイノベーションが進展していますので、これらを徹底的に活用することがリスクヘッジとなってくるでしょう。

何が真のリスクか?

上述した内容に共通して言えるのは、多様化したニーズ、マーケットの小規模化、コスト構造の最適化です。

難しい経営課題であることは確かですが、これらの課題に対応する様々なケースが実に多く出始め、また方法論も生み出されています。クラウドのようなネットワークインフラ投資が極小化するソリューション、製品やサービス開発手法についてはリーン・スタートアップのように、これまで戦略を固めて実施するのではなく、小規模に仮説検証を繰り返しながら展開していく手法などが生み出されています。もちろん、インフラビジネスなどは該当しませんが、これまでに比較して大規模な投資を前提とする事業開発は少なくなってくると思われます。

また、全く新しいニーズへの対処が現在の自社のビジネスを食ってしまうといったカニバリゼーションを起こす場合でも(いわゆる破壊的イノベーション)、自社とは別組織を組成し、経営体制や文化そのものを分断し、自由度を与えて推進するなどの方法論もあります。こうした経営論や開発手法の体系化は、予測不能な時代への対応とともに、リスクを極小化するためのもので、実は事業リスクという面ではかなり改善されてきているのです。

しかし、何か、まだ漠然とした踏み出せない理由が存在ます。これが最も重要な問題だと考えています。

マジョリティではなく、アーリーアドプター志向

マジョリティとは、多数採用者を指し、アーリーアドプターは初期採用者を指します。もともとイノベーションが社会に伝搬する中(製品やサービスのライフサイクル)で、採用時期によりカテゴリを分類したものです。マジョリティは、新しいことやものの採用には慎重で、初期採用者や他社の様子をうかがい、追従的に採用を決定します。アーリーアドプターは、自ら情報を積極的に収集し、他社に先んじて新しいものを採用する傾向にあるグループで、リスクテイクを前提に行動します。

本来、イノベーションの普及期間全体の中で、時期で分類されるものですが、事業展開においても追従するのではなく、前例のない新しいことに挑戦することが求められています。最も難しいのは、この志向・スタンスのシフトで、発想や思想の違いといっても良いかもしれません。

重複しますが、予測不能な時代に適応するための製品・サービス開発手法が体系化されることで、多様化した顧客ニーズへの対応とリスクヘッジを両立することは可能になってきました。後は、アーリーアドプター志向へとシフトし、当事者となって自ら進めることです。もはや真のリスクは、ライフサイクルが短縮化した中での事業展開ではありません。イニシアティブをとることなく、他社の追従的な行動をとることなのです。