サービス・事業開発におけるクラウド利用の本質

昨今、クラウドコンピューティングは様々な業界に浸透していますが、そのインパクトは確実にこれまでのビジネスにおけるコスト構造やモデルに多大な影響をもたらしています。
IT業界やネット系企業にかかわる人々にとっては、今更の感がある、このクラウド。今日は非IT/ネット系ベンチャーの、中小規模事業者の経営者様や事業企画担当者を対象にして、クラウドがもたらすインパクトについて、サービス開発・事業開発の視点にて、再度見直してみたいと思います。

なるべく技術的な解説はせずに、エッセンスが理解できるよう心がけます。また、クラウドコンピューティングの定義についても、様々なソースがに優良な解説がありますので、ここでは引用にとどめておきます。

クラウドコンピューティング – Wikipedia
従来のコンピュータ利用は、ユーザー(企業、個人など)がコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどを、自分自身で保有・管理していたのに対し、クラウドコンピューティングでは「ユーザーはインターネットの向こう側からサービスを受け、サービス利用料金を払う」形になる。ユーザーが用意すべきものは最低限の接続環境(パーソナルコンピュータや携帯情報端末などのクライアント、その上で動くブラウザ、インターネット接続環境など)のみであり、加えてクラウドサービス利用料金を支払う。実際に処理が実行されるコンピュータおよびコンピュータ間のネットワークは、サービスを提供する企業側に設置されており、それらのコンピュータ本体およびネットワークの購入・管理運営費用や蓄積されるデータの管理の手間は軽減される。

サービス開発におけるクラウド利用のメリット

クラウドコンピューティングは、インターネットの向こう側からサービスが届けられると表現がありますが、実際もう少し具体的にそのメリットをあげてみましょう。

1. ITインフラに係る調達費用の削減とインフラ運用コストが極小化

サーバ等ハードウェアやソフトウェアそのものは購入せず、プラットフォーム提供者から借りることになります。AmazonやGoogle Apps Engine、Salesforce.comのForce.com等、プラットフォームにより課金方法は異なりますが総じて利用者への課金は安く設定されています。また、インフラの運用はすべてプラットフォーム提供者の責任として行うため運用の手間やコストが引き下げられることになります。

2. ソフトウェアのオープンソース進展によりソフトウェアの無料化、サービス開発コストの削減

クラウドを支えている背景とも言えますが、アプリケーション開発に必要なウェブサーバーやデータベースソフトウェアのライセンスが無料であることが大きく影響し、これまでと比較しアプリケーション開発は、飛躍的にコストが下がっています。

サービス・事業開発/運営のコスト構造にも多大な変化

自社のIT化促進の上でのクラウド活用は多くの言及がありますが、ITやインターネットを活用したサービス開発・新規事業開発において、上記のメリットは何を意味するのでしょうか? スケールメリットばかり強調されており、非IT・ネット系ベンチャーや中小規模事業者の皆様にとっては自分とは関係ないと思われていませんか?しかし、サービスを開発し、それを事業化する上で、多大な変化と機会があると考えられます。

1. コスト構造が変わり、売上が低くても利益が出やすくなった

特にインフラ構築・運用に必要であったコストが相当削減され(借りることで負担が少なくなり経費化します。)、損益分岐点が低くなります。つまり、売上規模が少なくても利益が出しやすいP/Lとなり、大規模な投資を前提としない事業計画が可能になったと言えるでしょう。

2. 投資回収期間の短縮、B/Sへの影響は軽微

損益分岐点が下がるということは投資回収期間の短縮を意味します。また、大規模な投資を発生させないという意味で、B/Sに対する影響も軽微となり、減価償却の対象は自前で開発するアプリケーションが中心となります。

3. すなわち、新規事業へのリスクテイクがこれまでと比較して少ない

間違いなく、トライ&エラーがしやすくなったことは、大きなことだと思います。昨今の成熟した市場環境は、ニーズの多様化を生み出し、予測が困難になりつつあります。事前に戦略を固めるというより、検証しながら進めるということが成功へのカギになりつつあることが鮮明になってきました。

初期段階での大きな投資は不要に

このような状況は、資金調達においても変化をもたらしています。

今、ネット業界を中心に、ベンチャー・キャピタルに代わりシード・アクセラレーターと呼ばれる新しい資金調達ソリューションが生み出されています。これはベンチャー企業の初期段階に小額(100〜500万円程度)を資金供給するエクイティ投資ファンドです。こうした初期段階への投資は、これまでのベンチャー・キャピタルではリスクが大きすぎました。ところが、こうしたシード・アクセラレーターは、投資案件の小額化とともに案件数を拡大し、リスク分散を可能にすることで初期段階の資金調達ニーズを支える存在になったのです。また、ベンチャー・キャピタルからすると、リスクの大きい初期段階への投資を控えることができ、その中で育ってきたベンチャーに対してシード・アクセラレーターから紹介をうけるので、相互補完の関係にあるとも言えます。

いずれにせよ、ネットサービスを開発する上で、これまでと比較して大きな投資が不要になったこと、また、開発者を中心に起業しようとする人が増えたことを背景としてこのような形態が生まれたと言っていいでしょう。この状況もまた、クラウドやオープンソースの進展が裏側にあることは見逃せません。

クラウド活用は大手企業に対する強力な武器に

これまで規模の経済性を活かしたシェア拡大と効率重視のビジネスが優位性を築く上で重要視されてきました。そして、その対角線上で、常に差別化の議論がなされてきました。弊社は、差別化戦略の主なテーマであるコストリーダーシップ、フォーカスにおいて、このクラウド活用は重要なキー・エンジンになると考えています。

大手が手を出せない(出さない)小さなマーケットを、極小化されたコスト構造により、利益を生むマーケットに変えられる。クラウドに取組むのではなく、クラウドを武器にして新しいビジネスを生み出すことが可能になった。

これが認識すべき、最も重要なことだと考えています。